僕が万事屋で働き始めてから二週間がたつ。
その間に来た依頼はゼロ件。
僕に与えられた仕事は掃除洗濯炊飯、 という家事一切。
ファミレスでのバイトを解雇された責任をとってもらおうとここに押しかけ、雇ってもらった。 それでこの状況だ。
これでは本末転倒だった。 ここには仕事が無いのだから。この人がちゃんと給料を払えるはずがない。
早いところ次のアルバイトを探した方が良いのかもしれない。
勤め初めて三日でそう思い始めた。 それなのに僕はもう二週間、 万事屋に通いつめている。
理由は単純だった。
万事屋社長坂田銀時 ―銀さんは、 決して無口な男ではなかった。 彼と意味の無い、 しかしテンポの良い掛け合いを交わすのは実のところ結構楽しかったりする。 他愛無い、 騒々しいほどのやり取りはあまりに久しぶりで、 また新鮮だった。 フリーターの頃 (今も同じようなものだと思うけど) は、 無駄口を叩いていると容赦なく叱られたし、 姉と二人で暮らすには広すぎる屋敷は、 いつも静寂に満ちていた。
正直に言うと、 ここは居心地が良かった。
しかしそれだけが僕がここを去らない理由ではない。
彼は、 普段あんなに口数が多いくせに、 僕が日中掃除をしていているときは何も喋らなかった。 掃除機をかけるときに邪魔にならないようにソファに足を乗せるだけ。
洗濯物を干しているときも何も喋らなかった。 ただ窓の外で風に揺れる着流しやシーツをぼんやりと眺めていた。
食事の支度を終え、 テーブルの上の料理を囲んでいるときも、 食べ終わり、 皿を片付けているときも、 何も喋らなかった。
ただじっと、 僕の動きを見つめていた。 痛いほどの視線をいつも感じていた。
感謝や労りの言葉一つ無いことに腹は立たなかった。
掃除を終えた後、 事務所内を見渡す彼の瞳に、
朝、 洗い立ての着物に袖を通したときの彼の表情に、
食事中、 時折ほころぶ彼の口元に、
恥ずかしいほど、 僕は感謝されていた。
饒舌なのに、 発するべき言葉を捜すのはへたくそで。
それでも感情の伝え方はおそらく間違っていない。
僕もまた、 彼の無言の感謝を目の当たりにすると頬が緩んだ。
これが、 僕がここに留まる一番の理由だったりする。
+ + + + + + + + + +
坂田サイド
万事屋に妙な眼鏡が通い始めてからもう二週間になる。
アルバイトがくびになったから雇ってくれと押しかけられ、 断るのも面倒でそのままなし崩し的に二週間。
勿論万事屋なんかで働いたところで給料なんて出せるわけが無い。
このとろい眼鏡、 ―志村新八君は、 とろいくせに突込みだけは素早かった。 そして適切だった。
こいつと他愛無いやりとりをするのはなかなか面白い。
そして意外なことに家事をやらせてみると難なくこなしてみせた。
―こいつ、 不器用だったんじゃなかったのかよ。
掃除が終わった後の、 澄んだ部屋の空気。
着流しからは清潔な洗剤と陽の匂い。
食事からは長らく忘れていた暖かな味。
それらを好ましく思うのに時間はかからなかった。
しかし年中赤貧の万事屋だ。
どんなに好ましい眼鏡でもやはり給料は払えそうにもない。
彼がそれに気付き、 ここを去るのも時間の問題だ。
ある朝ふと目が覚めるとこいつが居なくて、 俺はあ~やっぱりなぁなんて思いながらもいつもの、 埃っぽくじめっとした万事屋でただひたすらに、 依頼を待つ。 そんな毎日が戻ってくるのだろうとぼんやり考えていた。
なぜだかひどくぞっとした。
しかし新八はこの二週間、 毎日やってきては万事屋の家事をこなし、 自宅へ帰っていった。
もう来ないだろう、 明日こそは来ないだろう……
その思いは容易く裏切られた。
あろうことか、 帰る間際に 「また明日」 なんて言葉を残していく始末。 俺は毎晩それを聞いて、 洗い立てのシーツにくるまれて眠った。 眠り込む前のまどろみの中、 彼のことを考える。
年の割には幼い顔をしている。
髪の毛は黒くまっすぐで俺とは正反対だ。
何がそんなに楽しいのか、 ふとした瞬間ほっこり笑ってみせる。
地味な眼鏡のくせに。
眼鏡を取ったらどんな顔をしているのだろうか。
明日、 目が覚めたときにあいつは居るのだろうか。
もし、 居たのなら明日こそ伝えたい。
ありがとうてつだうよおつかれさんいただきますこれうまいよごちそうさまありがとうまたあした
―こいつを手放したくないなんて思ってはいけない
そう考えたときには既に手遅れだった。
万事屋に妙な眼鏡が通い始めてからもう二週間になる。
アルバイトがくびになったから雇ってくれと押しかけられ、 断るのも面倒でそのままなし崩し的に二週間。
勿論万事屋なんかで働いたところで給料なんて出せるわけが無い。
このとろい眼鏡、 ―志村新八君は、 とろいくせに突込みだけは素早かった。 そして適切だった。
こいつと他愛無いやりとりをするのはなかなか面白い。
そして意外なことに家事をやらせてみると難なくこなしてみせた。
―こいつ、 不器用だったんじゃなかったのかよ。
掃除が終わった後の、 澄んだ部屋の空気。
着流しからは清潔な洗剤と陽の匂い。
食事からは長らく忘れていた暖かな味。
それらを好ましく思うのに時間はかからなかった。
しかし年中赤貧の万事屋だ。
どんなに好ましい眼鏡でもやはり給料は払えそうにもない。
彼がそれに気付き、 ここを去るのも時間の問題だ。
ある朝ふと目が覚めるとこいつが居なくて、 俺はあ~やっぱりなぁなんて思いながらもいつもの、 埃っぽくじめっとした万事屋でただひたすらに、 依頼を待つ。 そんな毎日が戻ってくるのだろうとぼんやり考えていた。
なぜだかひどくぞっとした。
しかし新八はこの二週間、 毎日やってきては万事屋の家事をこなし、 自宅へ帰っていった。
もう来ないだろう、 明日こそは来ないだろう……
その思いは容易く裏切られた。
あろうことか、 帰る間際に 「また明日」 なんて言葉を残していく始末。 俺は毎晩それを聞いて、 洗い立てのシーツにくるまれて眠った。 眠り込む前のまどろみの中、 彼のことを考える。
年の割には幼い顔をしている。
髪の毛は黒くまっすぐで俺とは正反対だ。
何がそんなに楽しいのか、 ふとした瞬間ほっこり笑ってみせる。
地味な眼鏡のくせに。
眼鏡を取ったらどんな顔をしているのだろうか。
明日、 目が覚めたときにあいつは居るのだろうか。
もし、 居たのなら明日こそ伝えたい。
ありがとうてつだうよおつかれさんいただきますこれうまいよごちそうさまありがとうまたあした
―こいつを手放したくないなんて思ってはいけない
そう考えたときには既に手遅れだった。
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