土→新
市中巡回中の土方は、 日頃は比較的温厚であるはずの眼鏡の少年に、 礼儀正しい彼にしては些か乱暴に呼び止められた。 そして訴えられたのは四六時中志村家に顔を出す近藤に対する文句。
「ちゃんと管理できないんだったらいっそのこと鎖で繋いで檻の中に閉じ込めておいてくださいよっ! 真選組なら牢くらいたくさんあるんでしょ?」
息も荒く、 随分とひどい事を言う。 いつになく本気で怒っているようだった。
顔どころか目まで充血している。 頬には赤い痣。
志村邸で何があったのか、 容易く想像できた。
おそらく近藤のとばっちりを食らってしまったのだろう。
もしかするとそれが原因で姉弟喧嘩でもしたのかもしれない。
眼鏡の怒りはもっともだった。
ちょっと待ってろ、 と紫煙を吐きながら土方が向かった先はコンビニエンスストア。
買い物を済ませ、 往来で待たせている少年の元へ急ぐ。
手に提げるビニール袋には煙草とマヨネーズ、 そして飲み物。
そこから飲み物だけを取り出し、 差し出した。 彼がマヨネーズを好まないことは承知済みだ。
「ほら、 これで頬冷やせ。 そんで取り合えず落ち着け。」
手渡された冷たい感触に、 一瞬怒りを忘れたのか軽く頭を下げられた。
近くの公園に誘い出し、 話を聞く。
―想像通りだった。
姉の近藤に対する壮絶な仕打ちに同情心が沸いたのか、 はたまた家屋の崩壊を案じたのか。
恐る恐る静止の声をかけたところ、 彼女の怒りを買ったらしい。
一通り話して落ち着いたのか、 少年は先程手渡された缶のプルトップに手をかけた。 少し揺らしてしまったのだろう、 噴出した泡に慌てる様子はひどく幼く見える。
とりあえず怒りは収まったとらしいと見極めて、 土方は胸を撫で下ろした。
顔色も平常に戻って、 頬が腫れる心配もなさそうだ。 まだ瞳は充血しているが、 それも直に収まるだろう。
―それより、 早いところ近藤さんを回収した方が良さそうだ。
少年の口から語られた様子では、 かなり痛めつけられているらしい。 そしてその元凶である女は怒り狂っている。
要塞じみた屋敷にこのまま手ぶらで向かうのは危険過ぎた。
かといって、 彼女のためにわざわざ手土産を見繕い、 腰を低くしてご機嫌を伺うというのはプライドが許さない。
―あー面倒くせっ
何もかもが嫌になり、 ぼんやりと紫煙を目線で追う。
少年も、 姉の怒りを静めなければ家には帰れないのだろう。
不安げな瞳を隠そうともせず土方を見つめる。
江戸市中は珍しく平穏。
今日は総悟が非番だった。 彼の破壊活動を案じる必要も無い。
空は晴れ渡っている。 ぷかりと浮かぶ雲に視線を移す。 きっと明日も晴れるだろう。
近藤のことさえなければ、 日頃気苦労の絶えない日常から開放される束の間のひと時。
そして隣には自分と同じく気苦労の絶えないだろう少年。 志村新八。
「……いっそのこと……、」
―このまま二人で逃げてしまおうか。
告げる気のない思いと言葉を飲み込めないまま、 土方は煙草を吸い続けた。
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