小話少々 銀新 忍者ブログ
腐向です。 閲覧注意! 銀新・新八受け
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「あ……、 雪だ。」

自宅へ帰る道中、 頬に触れた小さな氷。 立ち止まって夜空を見上げた。
街灯の明かりを反射してはらはらと舞い落ちる小粒の光。
きっとすぐ止むだろう。 積もることはなさそうだ。 多くの人が今、 初雪が降っていることに気付くことなく。

僅かな優越感。 まるでこの雪を独占した気分だ。

「神楽ちゃんにも見せてあげたかったな。」
明日、 彼女に話したら悔しがるに違いない。
「新八の癖に私より早く雪を拝むなんてずるいアル!」 不満げに訴える姿が目に浮かぶ。
それから、 いつ降るかも判らない雪を誰よりも早く見つけるために空を仰ぎ続けるのだ。

襟巻きを口元まで押し上げて小さく笑った。


「なに夜道でにやにやしてんだ? 気持ち悪ィ……」
唐突に背中にかけられた声に思わずひゅっと息を飲んだ。
「驚きすぎだろお前ェ、 愛しの銀さんの気配がわからねェのか?」

「急に声かけられたら誰だって驚きますよ……。」
振り向くと先刻まで万事屋でだらだらとくつろいでいた上司。
床に寝そべり、 顔だけを炬燵から出して新八に雑用を言い付けた怠惰な天パ。
今夜は寒いから自宅まで送って欲しい……頼むことすら憚れるほどだらけていた糖尿予備軍。

「どうしたんですか? こんな時間に……。」
「ちょっとじゃんぷ買いにな。」
「……今日、 木曜じゃないですか。 頭大丈夫ですか? じゃんぷは月曜発売ですよ。」

無意味な会話。 こんなこと聞かなくても判っている。
銀時は口に出さずとも察していたのだろう。 「送って欲しい」
それでも憎まれ口を聞いてしまう。
銀時に乞おうとした要望。 素直に伝えられるほど新八は子供ではなかった。
隠し通せるほど、 大人ではなかった。

「雪、 降ってるなぁ……。 道理で冷えるはずだ。」

半纏の中に仕舞い込まれていた腕を差し出されて、 そっと繋いだ。
どうか体温と一緒に伝わってくれないだろうか。 寒い思いをさせてしまってごめんなさい、 その何倍もの大きさのありがとう。

「神楽が悔しがりそうだなぁ、 雪降ったって言えば。」
「ふふ、 僕も同じこと考えてたんです。」

ぽつり、 ぽつり。 冷えた体を少しずつ暖める。
言葉を途切れさせては駄目だ。
この心は音という媒体を通さなくてはいけない。 この熱が直撃したら、 僕もこの人もひび割れてしまう。 熱疲労だ。

「さっきまで僕が独り占めしてる気分だったんですよ、 この雪。」
「だから笑ってたの? ガキくせーな。」
とろ火で温めていく。 自宅へ着く頃に丁度ふつふつと沸騰し始める計算で。
蓋をして保温したら、 きっと朝まで冷めないまま。

「じゃぁ、 今見てる雪は俺とお前だけのもんだな。」
「二人占め、 ですか。」

そうして二人、 冷たい冬の夜を凌ぐ。

「あぁ、 二人占め。 だから神楽には内緒な。」
恒道館道場、 新八の自宅に着いた。
穏やかに上昇を続けた熱もここまで。 消火。

後はゆっくりと冷ます過程でじわじわと、 沁み込ませる。
翌日にはきっと、 今日よりこの思いが深く根付いている。

「またあした」





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銀新成立10分前くらい





ある日、 喉の奥につっかえていた異物がすとんと胃に落ちていくように。
腑に落ちた。
すうっと消えていった違和感に逆に違和感を感じるほど急激に。 しかしあくまで自然に。 戸惑うことさえ許されない。

―あ~、 俺こいつのこと好きだったんだ。
―あ……、 僕この人のこと好きだったんだ。

どうやら異物は、 少しずつ時間をかけて身体に馴染んでしまったようだ。
今では全身に、 隅々まで行き渡っている。
気付いたときには体中にこびりついていた。 外気に触れる皮膚の表面から臓器の一番奥深く、 どんな最新医療でも手が届かない場所に至るまで。
いくらきれいに磨いても、 落ちることはない。
寧ろ磨けば磨くほど深く浸透していく。

老廃物として体外に排出しては新たに摂取してきた栄養素。
炭水化物たんぱく質脂質、 そしてこの途方も無く大きな愛情。 ビタミン、 ミネラル。
無くなるとこの体はきっと支えを失ってぐしゃり、 崩れてしまう。



「私は最初っから気付いてたネ、 お前ら二人が好き合ってることくらい。 工場長なめんなよ!」

階段を勢いよく下りながら得意げに言う神楽。
面食らった様子の二人を見てにひひ、 と笑う。

銀時と新八が己の気持ちを悟ったのはほぼ同時だった。
スナックお登勢の店先に止めてある原付き。
銀時は後部座席に新八が乗り込んだ重みを感じた瞬間。
新八は運転席に跨る銀時の腰に手を添えた瞬間。
あまりに近くにある存在が、 たまらなく愛しく思えたのだ。


「何ぼ~っとしてるアルかっ! お前ら気付いたんだろ。 さっさと告白するネ! 私が帰って来るまでにちゃんとくっついてなかったらしばき倒してやるからな」

行儀悪く酢昆布を咥えながらにやつく姿は銀時そっくりだ。
言うだけ言うと、 定春にまたがってあっという間に遠ざかっていった。 もう姿が見えない。
おそらくいつも行く公園にでも出かけたのだろう。 思いっきり遊んだ後は顔も手も足も服も靴も定春も泥だらけ。 それでも彼女は日が暮れる前にはここに帰ってくる。
新八が口を酸っぱくして何度も彼女に刻み込んだ成果だ。

「どうして、 神楽ちゃん気付いてたんでしょう……。」

顔を見合わせて、 いつもと寸分違わない調子の声を発しても、 交わる視線に熱が篭るのは抑えようがなかった。
思いは瞳から滲み出る。 
眼球を潤すための涙。 こぼれないほどささやかな雫。
そのわずかな体液にまで溶け込んでいるのだから。
きっと、 この身体を抱きしめられたらじゅっと滴り落ちてくる。 出汁をたっぷり蓄えた、 おでんのはんぺんになった気分。

「さぁな。 ガキの癖に妙にませたところがあるからなァあいつは……。」
高まる熱を自覚しながら、 銀時は言葉を返す。

神楽のことはともかく、 銀時と新八は一言も発していなかったはず。
己の気持ちを悟った瞬間、 相手の気持ちまでじわり。 胸に沁み込んでいたことに二人とも気付いていない。

ごく自然に、 相手の気持ちも腑に落ちていた。

「とりあえず、 ここじゃ恥ずかしいから。 一旦上戻ろうぜ。」
跨っていた原付きを離れ、 ヘルメットを外しながら階段を上がる。
「……そう、 ですね。」
新八も静かに、 その後に続く。 そろり、 そろりと注意深く。 
この瞬間が現実であることを願いながら。

これから相手に伝えるだろう言葉を、 頭の中で繰り返す。
ただ判りきった当たり前のことを、 これから二人で話し合う。 確認しあう。 新たな繋がりが生まれる。
それだけのことに、 どうしようもなく緊張した。




―気付いてて当たり前ネ。
この神楽様は、 お前らがお互いのことを好きな気持ちと同じくらい、 お前らのことが大好きなんだからな!

遠ざかる万事屋を背に、 定春に跨った神楽は堪えきれない笑みをこぼし続ける。

二人が思いを寄せ合っていることに気付いたのはずっと前。
万事屋に身を寄せるようになって暫くのことだった。
銀時と軽口を叩くようになった頃。
新八に甘えるようになった頃。

荒れ狂う強風の中、 ふと台風の目に足を踏み入れたような感覚に、 それまで渦巻いていた心細さや不満が静まり返っていることを思い知った。
ぷかりと、 晴れた空なんてまともに見たことはないけれど自分の中にはきっと今、 陽が浮かんでいる。
夜兎族である神楽には少し眩しすぎる光。 それは銀時のだらしなさとか、 新八の口煩さとかで相殺されて。 調和の取れた木漏れ日のよう。
ぴたりと、 まるで自分のために誂えたような具合の良さ。

―あぁ、 私はこの二人のことが好きアル。
そして、この二人も私のことが好きで、 でももっとずっと深い「好き」がこいつらの間には淀んでいる。

神楽はすんなり腑に落ちたのだ。

先刻の二人の顔を思い出して笑いが込み上げる。
どうあがいても動かしようのない純然たる事実を己の中に発見した顔。
その物体の全体像を眺めようと少し離れてみても、 大き過ぎてただ見上げるばかり。 胸の内に潜んでいた禍々しいほど巨大な思いに、 それまで気付かなかったことが不思議だ。
唐突に姿を現したそれを、 ぽかんと口を開けて眺めている間抜け面。
かつての自分も、 きっとあんな顔をした。


大好きな二人のことがもっと大好きになる。
片隅に燻るほんの少しの寂しさは、 きっと夕方万事屋に帰って、 大好きな二人に「お帰り」と言われた瞬間、 吹き飛ぶはずだ。
それに「ただいま」と返した瞬間、 消え失せる。

だから今日はいつもの公園には行かない。
「寂しい」なんて気持ち、 あの二人に会ってからずっと忘れていた感情なのだから。
誰も居ないところでひっそりと堪能するのだ。

定春と二人で、 この幸せを噛み締めよう。










銀さんの頭。 いつも僕の目線より少し高い位置にある。
白髪のように見える銀髪。 本人はコンプレックスに感じている天パ。
決して態度に表したことはないが、 僕は彼の頭髪が好きだ。
ただ黒く、 真っ直ぐなだけという平凡な自分の頭に不満があるわけではない。
それでも僕とは正反対の髪質に少しだけ、 憧れる。
きっと無いものねだりなんだろう。 銀さんも僕の髪の毛を羨むことがあるし。

その白髪天パがソファの肘掛からはみ出していた。
居間の入り口手前側のソファ。そこからぴょこんと飛び出している。

ふわふわふわふわふわふわ

呼吸に合わせて肩が動く。 呼応して頭が動く。
その微弱な動きは、 銀さんの心地よさ気な寝顔と相まって彼の髪を更に軽やかに見せた。

―触りたい
という衝動を抑えることなく、 ふわふわに手を伸ばす。



「…………ごわごわ……。」
触れた瞬間思わず口をついた呟きは、 銀さんの寝息に掻き消された。

思いの他硬く太い髪質から生ぬるい体温が伝わってきた。 思わず手を引けば、 軽く差し込んだだけの指に絡まった毛髪の軽い抵抗感。

想像では、 触れた瞬間ほわんと暖かく、 優しく僕の手をくすぐる柔らかな感触が味わえるはずだった。
タンポポの綿毛のような、 そっと握っても形を崩してしまう儚さ。 ガラス細工のように硬質な繊細さ、 それでも不思議と感じる温もり。
定春の毛に柔軟剤をたっぷり使って、 のどかな日差しに充分さらしたらきっとそうなる。
僕はそういったものを求めていたのだ。

―そうだこれは三十路手前のおっさんの頭じゃないか。

思わず吐いた溜息に、 眠っていた銀さんが目を覚ます。

「人の頭勝手に触っといて溜息は無ェんじゃねーの。」
「……確かにそうっスけど……、 すいません、 何か期待はずれだったんで。」

憮然とした顔を向けられたが、 僕だってすごくがっかりしたのだ。
この人の髪はもっと上質であるべきだった。
自分でも理不尽だと感じる言い分だが、 こればかりはしょうがない。
つい恨めしげに睨んでしまう。

「何だよ、 人が折角気持ちよく寝てたのに……。」

昼間から惰眠を貪るおっさんに、 僕はなんて夢を見ていたんだろう。
ぶつぶつと文句を垂れる天パを前に更に大きな溜息を吐いた。



以来、 銀さんの真っ白でふわふわの頭に妙な憧れを抱くのは止んだ。
それでも、 触り心地の悪いおっさんの頭に時々手を伸ばしてしまうのは止められなかった。

彼が困ったような顔をして頭を掻き毟っているとき、 くるくるの髪が風を受けてふわふわとそよいでいるとき、 陽の輝きを受けて反射した光がやけに眩しく感じられたとき。

ふとした瞬間、 無意識にも似た反応で僕の手は彼の頭に引き寄せられる。
その度に望んだものとは違う感触に落胆した。




もしかすると僕は、 ただこの人に触れていたいだけなのかもしれない。







銀新出会う前



鮮やかな黒と擦れ違った、 と思った瞬間には人ごみに埋もれて見失ってしまった。

―おかしいな、 あんなに人目を惹く色なのに……。
確かに派手さは無かった。 寧ろ慎ましげな印象。 自然な黒髪。 短髪。
しかし好みに煩い自分が一瞬で視線を奪われた。 目立たないはずがない。
それなのに見つからない。 姿が消えたわけではなく、 風景に溶け込んでしまった。
一瞬だけ目に触れた黒を脳裡でイメージする。
ぼんやりとした輪郭。 意識に焼き付けるには足りな過ぎた刹那。
それでも、 鮮やかな黒。 

立ち止まり、 顔を上げて辺りを見回す。 見当たらない。
行き交う灰色の人間たちの怪訝そうな視線が突き刺さる。

―引き返そうか。
俺はどうしてもあいつを捕まえておかなければならないのだ、 という気がする。

しかし生来の怠惰な性格が邪魔をした。

―運が良けりゃまた会えるか。
諦めて、 歩みを進めた。

あいつは俺の隣に居るべきなんだ。
俺の放縦に跳ね回る銀髪。 それより少し低い位置にあの黒が並ぶ。
これ程しっくりするものはない。
なのにどうしてあいつは、 立ち止まりもせず、 振り返りもせず、 通り過ぎて行ったんだ。 どうして、 俺のことを見向きもしなかった。
苛立ちにも似た喪失感に無理矢理蓋をする。


―俺は、 引き返すべきだったんだ。
引き返して、 追いかけて、 見つけて、 何としてでも繋ぎとめておくべきだった。
後悔したのは酔いつぶれながらも陰気な住処に辿り着いた頃。 アルコールで紛らわせたつもりになっていた感情と、 ふと向かい合ってしまった瞬間。
決して広くはないくすんだ室内に、 あいつが足りないことを悟ってしまった。

誤って肺に重量のある気体を送り込んでしまったような体。
毛細血管にラドンが詰まる。 きっと、 息苦しい。



その鮮やかな黒と再開したのは数日後。 一週間ぶりのパフェと向かい合った時のことだったが、 まさかこの地味な少年があの時自分が追わずに悔やんだ鮮やかな黒だと気付くことはなかった。











朝の洗顔中、 指が違和感を拾った。
眼鏡をかけて正面の鏡を覗き込む。
代わり映えの無い地味な容貌の中に、 常には無い小さな粒が額に一つ。

「……吹き出物、……いや、 僕の年代だとにきびって言うんだろうなぁ。」
額にかかる前髪をかき上げて、 しみじみ観察する。

痛みも痒みも無いが、 微かに赤味を帯びている。
そっと指で触れてみる。 小さく盛り上がった表面は、 意外と滑らかだった。
軽く押すと、 不快なほどではない鈍い痛み。 小さな痛みが寧ろ快い。 
冷えた指先がじんわり温まる。 少し熱を発しているのだろうか。
目立つ程の大きさはないが、 それでも静かに存在を主張していた。

これが神楽の顔面に出来ていたのなら、 血相を変えて食事管理から始まり日中の生活態度、 生活習慣を改めようと奮起したのだろう。 疎まれるほどに。
「女の子の肌は凹凸一つないすべすべでなければならないのだ、 お通ちゃんのように。」
というのは新八の持論である。
しかし彼は男である自分の顔面にはかなりの無関心さを持ち合わせていた。

―元から損なわれるほどの美観など持ち合わせていないし…… 
「ま、 いーや。 おろないんでも塗っとこ。」
近づきすぎた鏡から離れて前髪を下ろす。
―そういえば最近、 寝不足が続いてたもんな……。
ここ数日の生活習慣を省みて溜息をついた。


万事屋での夕食を終えると、 後片付け。 新八の目を盗んで冷蔵庫からいちご牛乳を取り出す銀時。 その動きを視線だけで静止させながら、 皿を洗う。
それが終わると神楽に風呂へ入るよう促す。
テレビで翌日の天気予報を観ながら万事屋の経理…… というより家計簿をつける。 天気次第で明日の洗濯の予定が決まるのだ。 その隙に冷蔵庫へ向かう銀時を目線で凍りつかせることも忘れない。
神楽が風呂から上がると赤鉛筆を置き、 水気を大いに含んだ髪の毛をドライヤーで乾かしてやる。
銀時は 「それくらい自分でやらせろ」 と不満げな顔をするのだが、 彼女が猫のように目を細めてあまりに嬉しげに笑みをこぼすものだから、 つい手をだしてしまう。
いちご牛乳を諦めたのか銀時は、 茶を所望する。 神楽の頭から手が離せない新八は、 ドライヤーの音に掻き消されて聞こえなかったふり。
神楽の髪が乾いたら、 今度は歯を磨くように言い聞かせ、 銀時を風呂場へ放り込む。
深夜番組が観たいと駄々をこねる神楽をなだめ、 押入れの入り口まで連れて行く。 
「おやすみなさい、 神楽ちゃん。」
渋々、 「おやすみヨ~、 新八、 銀ちゃん。」と返す姿を風呂上りの銀時と二人で見届ける。
そして今度は銀時の髪を乾かす。 「神楽の髪はやってやるのに、 俺の髪は嫌だってんのかよ」 と拗ねられる前に。
それからようやく、 なぜか後ろからついてくる銀時を黙殺しながら、 一日の疲れを癒すために風呂へ向かう。 風呂場の出入り口では、 銀時がドライヤーを構えてじっと佇んでいる。 擦りガラス越しの会話。
寝る前に和室に二人分の布団を敷き、 自分の寝床に潜り込む。 豆電球はつけたまま。
目を瞑っても、 隣に眠る人物の視線が突き刺さる。 彼の息遣いをすぐ耳元で感じたと思った時には、 布団に手をかけられている。 そっと侵入してきた大きな手を拒むことはしない。
―それから、 それから……

あれ? 僕いつ自宅に帰ってるんだろ……。

思考を無理矢理遮断するように、 新八は首を乱暴に振った。



「あれ~? 朝から鏡とにらめっこして溜息吐くなんて、 ど~したの~?」
廊下に繋がる洗面所の入り口から、 銀時が声をかけてきた。

「何々?顔赤らめちゃって……、 新ちゃんったらエッチ~。 昨夜のことでも思い出してた?」
からかうような響きに、 半分図星ながらも強く否定の言葉を入れる。

「……何だよ、 朝っぱらから不機嫌なやつめ。……ってあれ? お前、 おでこに……」

新八の異変に気付いたのだろうか。 眼鏡を奪われ、 額に顔を近づけられた。
普段は死んだ魚のようだと称され、 実際に何も映していないのではと感じられる時もある銀時の瞳。 しかし新八のこととなると、 どんな些細な変化でも見逃さない。
それが少し……、 かなり嬉しかったりする。

顎に手をかけられて上を向かされる。 そのまま顔を固定されて動けない。
近づく銀時の顔に心臓が逸るが、 抑える術を知らなかった。
仕方なく、 硬く瞼を下ろす。 

やがて、 銀時が口を開いた。

「……お前、 それ……、」
いつになく深刻な声だ。 新八を睡眠不足にしてきた責任を感じているのだろうか。

―気にする必要なんてないのに。 アンタを拒まなかったのは紛れもなく、 僕自身なんだから。
銀時の様子が気になって、 そっと薄目を開けた。

新八の額に釘付けとなった瞳は爛々と輝き、 血走っている。 声は真剣でも、 だらしなく口角が上がっていた。

―あれ? この表情何か想像と違う……。
「沈痛な面持ち」 を予想していた新八は薄く開いていた瞼を見開いた。


「……お前、 これ……、 

………… おでこに乳首できてる! か~わい~い!」

感極まった声で言い放つと、 寝起きの、 歯さえ磨いていない口で新八の額に吸い付いた。
額に生ぬるい舌の感触。 どうやら舐めまわされているようだ。 生臭い息が鼻先を掠める不快感。 頬に無精髭がちくりと刺さる。

押さえつけられていた力が弱まった瞬間、 手を振りほどいて出来る限り距離をとった。
銀時の、 つやつやと張りと弾力を持った肌を見ると無性に腹が立つ。
感情の趣くまま彼の顔面に蹴りを入れた。 仰向けに倒れた身体を踏みつけて玄関に向かう。

「ちょ……、 お前こんな朝っぱらからどこ行くの!?」
背中に慌てたような声がかけられた。

「薬局行ってきますっ! 駅前のとこはこの時間もう開いてるんでっ!」

怒りと羞恥に顔全体を染めた新八は珍しく荒っぽい歩みで万事屋を後にした。
決して豊かではない万事屋の経理を預かる身としては、 余計な出費は避けたいところ。
しかしたかが吹き出物のためだけに、 ビタミン剤を買おうと決心した新八の足は急くばかりだった。

―寝不足になろうが肌が荒れようが変態だろうが、 あの人と夜を過ごすのはやめられない。

まだ乾いていない、 額についた銀時の唾液が風をうけてひやりとした。
その感触を最大限に味わうために、 新八は早朝のかぶき町を駆け出した。





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