銀新出会う前
鮮やかな黒と擦れ違った、 と思った瞬間には人ごみに埋もれて見失ってしまった。
―おかしいな、 あんなに人目を惹く色なのに……。
確かに派手さは無かった。 寧ろ慎ましげな印象。 自然な黒髪。 短髪。
しかし好みに煩い自分が一瞬で視線を奪われた。 目立たないはずがない。
それなのに見つからない。 姿が消えたわけではなく、 風景に溶け込んでしまった。
一瞬だけ目に触れた黒を脳裡でイメージする。
ぼんやりとした輪郭。 意識に焼き付けるには足りな過ぎた刹那。
それでも、 鮮やかな黒。
立ち止まり、 顔を上げて辺りを見回す。 見当たらない。
行き交う灰色の人間たちの怪訝そうな視線が突き刺さる。
―引き返そうか。
俺はどうしてもあいつを捕まえておかなければならないのだ、 という気がする。
しかし生来の怠惰な性格が邪魔をした。
―運が良けりゃまた会えるか。
諦めて、 歩みを進めた。
あいつは俺の隣に居るべきなんだ。
俺の放縦に跳ね回る銀髪。 それより少し低い位置にあの黒が並ぶ。
これ程しっくりするものはない。
なのにどうしてあいつは、 立ち止まりもせず、 振り返りもせず、 通り過ぎて行ったんだ。 どうして、 俺のことを見向きもしなかった。
苛立ちにも似た喪失感に無理矢理蓋をする。
―俺は、 引き返すべきだったんだ。
引き返して、 追いかけて、 見つけて、 何としてでも繋ぎとめておくべきだった。
後悔したのは酔いつぶれながらも陰気な住処に辿り着いた頃。 アルコールで紛らわせたつもりになっていた感情と、 ふと向かい合ってしまった瞬間。
決して広くはないくすんだ室内に、 あいつが足りないことを悟ってしまった。
誤って肺に重量のある気体を送り込んでしまったような体。
毛細血管にラドンが詰まる。 きっと、 息苦しい。
その鮮やかな黒と再開したのは数日後。 一週間ぶりのパフェと向かい合った時のことだったが、 まさかこの地味な少年があの時自分が追わずに悔やんだ鮮やかな黒だと気付くことはなかった。
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