銀さんの頭。 いつも僕の目線より少し高い位置にある。
白髪のように見える銀髪。 本人はコンプレックスに感じている天パ。
決して態度に表したことはないが、 僕は彼の頭髪が好きだ。
ただ黒く、 真っ直ぐなだけという平凡な自分の頭に不満があるわけではない。
それでも僕とは正反対の髪質に少しだけ、 憧れる。
きっと無いものねだりなんだろう。 銀さんも僕の髪の毛を羨むことがあるし。
その白髪天パがソファの肘掛からはみ出していた。
居間の入り口手前側のソファ。そこからぴょこんと飛び出している。
ふわふわふわふわふわふわ
呼吸に合わせて肩が動く。 呼応して頭が動く。
その微弱な動きは、 銀さんの心地よさ気な寝顔と相まって彼の髪を更に軽やかに見せた。
―触りたい
という衝動を抑えることなく、 ふわふわに手を伸ばす。
「…………ごわごわ……。」
触れた瞬間思わず口をついた呟きは、 銀さんの寝息に掻き消された。
思いの他硬く太い髪質から生ぬるい体温が伝わってきた。 思わず手を引けば、 軽く差し込んだだけの指に絡まった毛髪の軽い抵抗感。
想像では、 触れた瞬間ほわんと暖かく、 優しく僕の手をくすぐる柔らかな感触が味わえるはずだった。
タンポポの綿毛のような、 そっと握っても形を崩してしまう儚さ。 ガラス細工のように硬質な繊細さ、 それでも不思議と感じる温もり。
定春の毛に柔軟剤をたっぷり使って、 のどかな日差しに充分さらしたらきっとそうなる。
僕はそういったものを求めていたのだ。
―そうだこれは三十路手前のおっさんの頭じゃないか。
思わず吐いた溜息に、 眠っていた銀さんが目を覚ます。
「人の頭勝手に触っといて溜息は無ェんじゃねーの。」
「……確かにそうっスけど……、 すいません、 何か期待はずれだったんで。」
憮然とした顔を向けられたが、 僕だってすごくがっかりしたのだ。
この人の髪はもっと上質であるべきだった。
自分でも理不尽だと感じる言い分だが、 こればかりはしょうがない。
つい恨めしげに睨んでしまう。
「何だよ、 人が折角気持ちよく寝てたのに……。」
昼間から惰眠を貪るおっさんに、 僕はなんて夢を見ていたんだろう。
ぶつぶつと文句を垂れる天パを前に更に大きな溜息を吐いた。
以来、 銀さんの真っ白でふわふわの頭に妙な憧れを抱くのは止んだ。
それでも、 触り心地の悪いおっさんの頭に時々手を伸ばしてしまうのは止められなかった。
彼が困ったような顔をして頭を掻き毟っているとき、 くるくるの髪が風を受けてふわふわとそよいでいるとき、 陽の輝きを受けて反射した光がやけに眩しく感じられたとき。
ふとした瞬間、 無意識にも似た反応で僕の手は彼の頭に引き寄せられる。
その度に望んだものとは違う感触に落胆した。
もしかすると僕は、 ただこの人に触れていたいだけなのかもしれない。
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