春、 暖かな陽気に浮かれ満開の桜の木の下ではしゃぐ。
隠し切れない新たな季節への喜びに満ち満ちたお前は、 不思議と足取りも軽やかになっている。
年相応に幼い笑顔は、 長く冷たかった季節の名残を微塵も感じさせない。
かと思えば、 時折まだ冷たさの残る風をその無防備な首筋に受けては袖を合わせ、 「やっぱりまだまだ冷える日が続きそうですね」 なんて笑いながら暖をとろうと擦り寄ってくる。
全ての植物が瑞々しく、 生命に溢れている。
多くの動物達は発情期を向かえ、 まぐわい、 子を生す。
だから俺らも、 致しませんか。
夏、 薄手の着物を身にまとい、 心持ち襟ぐりを広げ、 額には汗をにじませる。
窓を開け放ち、 風を蒸し暑い事務所の中に招きこむのはお前の役目。
だから俺は暑くて寝苦しさにうなされるお前が落ち着くまで、 時には明け方まで団扇で扇いでやる。
そんなことは露知らず、 「昨夜は寝苦しかったですね、 銀さんのいびきがうるさかったのかな……?」 なんてほざかれても一向に構わない。
二日酔いの頭に嫌がらせのように響く蝉時雨。
長期休暇に浮かれた若者たち。
行楽地はどこもかしこも人でいっぱいで、 折角二人きりで出かけても手を繋ぐことさえままならない。
それでも俺はこの季節を一番愛している。 なぜならお前が生まれた季節だからだ。
だから、 生の喜びを二人で感じてみたくありませんか。
秋、 過ごしやすくなった気候に頬が緩む。
見事に染まった紅葉を、 わざわざ見に行く必要は無い。 お前の部屋から見上げるただ一本の楓がどんな名木よりも美しいことを俺は知っている。
この季節、 お前はずっとそわそわしている。 その理由も俺には痛いほど理解できる。
お前が誰よりも何よりも大好きな銀さんの誕生日があるもんな。 それが終わると今度は唯一の肉親の、 そしてそのすぐ後に俺たちの大切な家族の。
だからきっとお前はこの季節を一番愛している。 だから俺も、 この季節を好きになれたんだ。
松茸なんか食ったことない。 特に食べたいとも思わない。 だがお前の作った、 具が少なくて貧乏臭い栗ご飯なら食べてみたい気がする。
だから、 栗拾いとでもしゃれこみませんか。
冬、 どんなに暑くてもきっちりと着物を身に纏うお前が、 更に隙間無く肌を覆う。
しかし小さな顔が埋もれるように首にまかれた襟巻き。 まるで小動物のような愛らしさだ。
凍てつく冷気の中、 頬や耳、 鼻の頭が赤く染まった顔、 控えめに口から吐き出される白い吐息。
暖かな空間に入った途端に眼鏡が曇ってしまい慌てるのも、 冬の風物詩。
新年を迎えて、 何もかもが新しくなった空気に、 お前もまた新たな決意を胸にその瞳の光を強くする。
どんな大層な決意を胸に秘めているかなんて知りはしない。
俺の決意は新しいものでもなんでもなく、 ここ数年決まって同じこと。 お前と出会った年から何一つ変わらないこと。 それでも年々その決意は大きく、 深く、 広くなる。
しかしどんなに立派な信念抱えても、 寒いものは寒いわけで。
どうでしょう、 この冷え切った体を暖めてはくれませんか。
つまり年中、 おまえが恋しいんだ。
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僕が万事屋で働き始めてから二週間がたつ。
その間に来た依頼はゼロ件。
僕に与えられた仕事は掃除洗濯炊飯、 という家事一切。
ファミレスでのバイトを解雇された責任をとってもらおうとここに押しかけ、雇ってもらった。 それでこの状況だ。
これでは本末転倒だった。 ここには仕事が無いのだから。この人がちゃんと給料を払えるはずがない。
早いところ次のアルバイトを探した方が良いのかもしれない。
勤め初めて三日でそう思い始めた。 それなのに僕はもう二週間、 万事屋に通いつめている。
理由は単純だった。
万事屋社長坂田銀時 ―銀さんは、 決して無口な男ではなかった。 彼と意味の無い、 しかしテンポの良い掛け合いを交わすのは実のところ結構楽しかったりする。 他愛無い、 騒々しいほどのやり取りはあまりに久しぶりで、 また新鮮だった。 フリーターの頃 (今も同じようなものだと思うけど) は、 無駄口を叩いていると容赦なく叱られたし、 姉と二人で暮らすには広すぎる屋敷は、 いつも静寂に満ちていた。
正直に言うと、 ここは居心地が良かった。
しかしそれだけが僕がここを去らない理由ではない。
彼は、 普段あんなに口数が多いくせに、 僕が日中掃除をしていているときは何も喋らなかった。 掃除機をかけるときに邪魔にならないようにソファに足を乗せるだけ。
洗濯物を干しているときも何も喋らなかった。 ただ窓の外で風に揺れる着流しやシーツをぼんやりと眺めていた。
食事の支度を終え、 テーブルの上の料理を囲んでいるときも、 食べ終わり、 皿を片付けているときも、 何も喋らなかった。
ただじっと、 僕の動きを見つめていた。 痛いほどの視線をいつも感じていた。
感謝や労りの言葉一つ無いことに腹は立たなかった。
掃除を終えた後、 事務所内を見渡す彼の瞳に、
朝、 洗い立ての着物に袖を通したときの彼の表情に、
食事中、 時折ほころぶ彼の口元に、
恥ずかしいほど、 僕は感謝されていた。
饒舌なのに、 発するべき言葉を捜すのはへたくそで。
それでも感情の伝え方はおそらく間違っていない。
僕もまた、 彼の無言の感謝を目の当たりにすると頬が緩んだ。
これが、 僕がここに留まる一番の理由だったりする。
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