万事屋
正月は苦手だ。
皆が皆、 新たな一年に向けた抱負とやらを掲げ、 そんなもの一月も経てば忘れてしまうのだろうに、 それでも 「今年こそは!」 なんて鼻息荒く、 決意に目を輝かせている。
新八も、 神楽も。
俺はそんな二人を見て彼らの決意が無駄になることを祈っているダメな大人だ。
だって日々めまぐるしく成長する二人にただでさえこの身はすくむ。 それなのに、 目標なんて持ってそれに見合う努力を続けて加速した成長速度では、 あっという間に俺の手を離れる日が来て、 個々の人生を歩み出すに決まってる。
なぁ頼むから前ばっかり向いてないで、 たまには後ろを振り返ってみろよ。
余裕綽々の顔して胸の内ではみっともなくあがいているダメな大人を置いていかないでくれよ。
いくらダメな大人でも新八と神楽の成長を阻害する気持ちは毛頭ない。
二人の歩みを一番間近で眺めるのは俺だ。 自分でも呆れるほどの独占欲。
この子供たちは俺の傍でぬくぬくと大きくなる。 本人さえ気付かないような、 去年と今年、 先月と今月、 先週と今週、 昨日と今日の差異を、 誰よりも早く見つけてやるのだ。
そのことに堪えがたい喜びが湧き上がる。
ただ、 ほんの少しだけ歩幅を緩めて欲しいだけだ。
成熟した二人が真っ先に別れを告げるのは、 きっと俺だから。
いつの日か、 幾分か背が伸びて、 それでも相変わらず駄眼鏡な新八がいつものように掃除でもしながら、 少し畏まって告げる。
「道場の復興の目処が立ったんです。 これからは恒道館道場当主として、 一層剣術に励んでいくつもりです。 今まで、 本当にありがとうございました。」
改まってアンタにこうやってお礼を言うのは何だか恥ずかしいですね、 なんて寂しそうに笑う顔に少年だった頃の面影を探している自分に気付いたとき、 俺は新八がもう子供ではなくなってしまったのだと理解する。
押入れにすっぽり収まってしまう小さな神楽は、 果てしなく広大な宇宙を多分父親と一緒に駆け回る。
こいつにかかれば宇宙だって窮屈だろう。 それくらい、 のびのびと。
「じゃぁ、 ちょっくら行ってくるアルよ~。 今まで世話になったナ。」
新八とは違いあまりにもあっけらかんとした顔で軽い言葉を残して。
明るい笑い声は幼さを残したままで心配ばかりが募るが、 それでもあいつなら大丈夫だろうという確信を持ち、 黙って見送る。
手のかかる子供たちはそれぞれに己の道を歩むのだろう。 俺を残して。
大切な宝物には輝かしい未来を。 一寸の狂いもなく正解だ。 決して遠い未来じゃない。
きっと、 祝福できるはずだ。
そして俺は二人の残した痕跡、 例えば新八が掃除機をぶつけたときにできた柱の傷や、 神楽が乱暴に開け閉めしたことで立て付けの悪くなった襖なんかを目にする度に万事屋に木霊するかつては確かに傍にあった二人の笑い声に包まれる。
その瞬間から始まるのは、 長過ぎる余生。
色とりどりの思い出を一つ一つ手にとって懐かしんでいる間に終わりが来るはずだ。
俺の人生は、 こいつらと過ごした時間そのものであって欲しい。
「僕、 今年こそは銀さんの糖尿を治して見せます!」
「私もネ! 今年こそ銀ちゃんの足臭いのフローラルにしてみせるアル!」
「……。 お前ら、 自分の抱負は自分の力でなんとかしなさい。」
告げられた二人の抱負はどちらも銀時に委ねられたものだった。
輝く二対の瞳はまっすぐに、 淀んだ一対の瞳に向けられる。
銀さんの抱負は何ですか?
銀ちゃんは抱負決めたアルか?
銀ちゃんは抱負決めたアルか?
毎年肥大化する望みは年々確固たる形状を築いてきた。
今年も三人と一匹で笑いあいたいな
少しでも長くこいつらと過ごせたらな
いっそのことずっと一緒に居たいな
少しでも長くこいつらと過ごせたらな
いっそのことずっと一緒に居たいな
叶えること決しては許されない願いは祈ることすら罪だ。 与えられた果報に満足できず、 もっと、 もっとと求めてしまう。
そうさせているのは紛れもなくこいつらだ。
俺の心中などまるで無視して更に欲を煽るようなことをしてのける。
二人の言葉は当たり前のように今年も俺の傍に居ることを示していて、 もしかするとこれが毎年続いてくれるのではないかなんて期待を抱かせる。 そんなはずないのに、 そうであって欲しいと思ってしまう。
その期待はやがて来る別れをひたすら悲しく演出するものでしかない。
それでも俺は元凶たる二人の視線から目を背けられずにいる。 だって心地よすぎるのだ。
「俺は新八のアイドルオタク卒業させて、 神楽の大食い止めて、 定春の噛み癖を直す。」
胸に仕舞い込んだ、 幼い二人には重過ぎる願いを悟られないように軽口で返した。
図らずとも 「今年も一緒に居る」 ことを表した言葉になってしまったが、 これくらいは許されるだろう。
心外だと訴える不満顔二つと、 後ろからがぶりと噛み付かれた痛みが愛おしい。 ……マゾっ気があるわけじゃねーけど。
「お前らの抱負だって似たようなもんだろ、 俺は糖尿でもねーし足臭くもねーよ」
誰からともなく繋がれた手は俺の願いを肯定してくれているようで、 どうしてこんなにも幸せなんだろうなんて浮かれて、 口を滑らせたくなる。
俺の、 家族になってくれないかな
今年も膨らんだ願いが、 とっくに叶えられていることに銀時が気付くことはなかった。
+ + + + + + + + + +
今年も言えなかったな。
今年も言えなかったアル。
一年毎の抱負なんて小さなものではなく、 一生涯をかけて掲げた決意。
叶える為ならば何だってやってやる。
ずっと、 アンタらと一緒に居たいです。
ずっと、 お前らと一緒に居てやるヨ。
ずっと、 お前らと一緒に居てやるヨ。
普段は決して言葉にはできない恥ずかしいほど強い願い。
敢えて口に出す必要もなかった。 日々はあまりに騒々しく、 しんみりと思いを語る暇なんて無かった。
ただ笑って、 怒って、 ふざけて、 泣いて、 また笑った。
新年を迎えてふわふわ浮き立った空気を味方につけた今なら言える気がする。 今宣言したら、 何だって叶うような気がする。
毎年繰り返す葛藤に未だ打ち勝てないのは覚悟が足りないからではない。 今更言うことでもないかな、 なんて逃げ道に縋ってきた結果だ。
(……やっぱ無理だ、 言えないよ。 絶対笑うもんこの人たち……。
「え? 何? 急にどうしたの? 何でお前は新年早々おセンチなムードなんだよ。 これだから思春期は~」 なんてさ。 からかわれるに決まってる。)
(こういうことは、 工場長様から言うことじゃないネ!
まずは愚民どもから頭下げて懇願してきて、 そこで初めて私がしょうがねーなーって許可を下すのが理想アル。 空気読めよ男共。)
どう足掻いても紡げない言葉の代わりに、 少しでも思いが伝わるように、 三人の手を堅く繋いだ。
臆病な大人、 照れ屋な少年、 意地っ張りな少女。
三人の約束された幸福を祝福するように、 定春は銀時の頭を咥えたままの顎に力を込めた。
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